中央競馬を開催・運営する特殊法人として公共性の高い事業を展開する日本中央競馬会では、公式HPや公式アプリ、開催情報システム、業務用VDIをはじめとした各種情報系システムを動かすための統合IT基盤を運用しています。今年度、第3世代となる統合IT基盤への刷新にあたり、プライベートクラウド環境としてVMware Cloud Foundationを継続採用しました。中央競馬を支える各種情報系システムが稼働する基盤に求められる安定性を重視した再整備をVMwareと共に実現しています。また、ライブマイグレーション技術(vSphere vMotion)を活用し、第3世代基盤へのシームレスかつ高速なシステム移行も実現しています。
【課題】統合IT基盤の第3世代への移行が必要に
日本中央競馬会(以下、JRA)は、1954年に設立され、中央競馬を開催・運営する特殊法人として公共性の高い事業を展開しています。「JRAは、毎週走り続けます。」という経営の基本方針のもと、全国10の競馬場や38を数えるウインズ・エクセルなどの場外発売所、馬事公苑、競馬学校、競走馬総合研究所、日高・宮崎育成牧場、栗東・美浦トレーニング・センターなどを統括しています。2024事業年度には、開催競馬場入場人員は500万人超、売得金は13年連続で前年を上回る3兆3000億円超となり、電話・インターネット投票会員に至っては650万人を超える規模を誇っています。国際的なスポーツエンターテインメントとしての競馬の魅力を発信しながら、SDGsや気候変動、馬の福祉といった中央競馬を取り巻く諸課題に積極的に取り組み、DX推進によって事業運営のさらなる効率化・安定化を図っています。 同法人では、公式HPや統合DB、開催情報システム、競走馬情報管理システム(JARIS)、職員業務に必須となるVDI、会計給与管理システムといった各種情報系システムを統合的な環境で運用する統合IT基盤を整備しています。「従来は個別に運用してきた仕組みを1つの基盤に統合したことで、個別業務を担当する課はソフトウェア開発に注力でき、機器費用についても圧縮できるようになりました。ただし、何か障害が起これば全体に波及してしまうため、安定性を重視した基盤づくりを行っています」と、同社 情報システム部 システム統括課 課長 横田 健樹氏は説明します。

日本中央競馬会 情報システム部 システム統括課 課長 横田 健樹氏
「信頼性を重視したシステムを構築することを第一義にインフラ作りを進めています。その基盤づくりに応えてくれているのがVMwareです。過去の実績からもVMwareの信頼性を高く評価しています」
この統合IT基盤はすでに第2世代を迎えており、ハードウェアや保守のサポート切れを迎えるタイミングに合わせて第3世代となる統合IT基盤への刷新が求められていました。同部 システム企画室 調査役 牧 秀光氏は「統合IT基盤は、サーバ仮想化やVDI、ネットワーク仮想化など世代を重ねながら環境整備を進めており、第2世代で完成系に近い形にまで持ってきていました。新たに刷新する第3世代では、機能レベルを分けたノード集約によるリスクの極小化や検証環境含めたステージング環境の整備、VDIのレスポンス改善など、いつくか積み上がっていた課題を解決できる環境が望まれたのです」と説明します。
ただし根底にあるのは、従来以上の信頼性の高い基盤であることとともに、第2世代からの安全な移行を一丁目一番地として取り組むことでした。
【ソリューション】安定稼働と安全な移行を可能にするVMware Cloud Foundation
新たな基盤を選定するにあたっては、安定稼働と安全な移行をメインに検討を進めました。横田氏は「調査研究においてはパブリッククラウド環境も含めて検討しましたが、競馬の開催日である土日を中心に運用することが前提で、障害時の対応や個人情報の安全な取り扱いも含めて懸念があったことは事実です。第4世代の検討時には分かりませんが、現時点ではコストメリットもなく、第3世代では従来通りプライベートクラウドの環境で運用することがベストだと判断しました」と語ります。
第三者による調査研究の結果を経て、最終的に採用されたのは長年利用してきたVMware Cloud Foundationでした。牧氏は「変化が常に発生するシステムであればコンテナ環境が向いており、すでに一部では採用しています。ただし、競走馬の情報を扱うJARISのような、ある意味で基幹システムに近い仕組みであれば、従来の仮想サーバで動かすのがベターではないかと考えました。また、これまで安定稼働を続けてきたVMwareの安定性や移行性を上回る他のソリューションが存在しなかったのも事実です」と語ります。

日本中央競馬会
情報システム部 システム企画室 調査役 牧 秀光氏
「ネットワーク領域含めて仮想環境をトータルパッケージで提供いただけており、物理スイッチを中心とした運用の課題の多くを改善できています。NSXの導入効果を実感しています」
統合IT基盤の設計から構築、運用保守まで担っているJRAシステムサービス株式会社 情報システム運用部 情報システム管理室 室長 堀 寛之氏は「確かに有効なソリューションが出てくれば比較対象になり得ますが、ネットワーク仮想化も含めて基盤全体として多くの実績と安定性を担保する機能を兼ね備えている製品はまだ存在していないという認識です」と語ります。同室 調査役 水野 進康氏も「第三者による調査研究を実施した結果、VMware Cloud Foundationほど多くの機能と安定性を持ち合わせたソリューションは他にはないというのが現場で実際にシステムを運用する我々の結論でした」と説明します。

JRAシステムサービス株式会社
情報システム運用部 情報システム管理室 室長 堀 寛之氏
「ケース管理のような対応が多く見られる他社とは違い、定例会も含めて本システムを熟知したエンジニアが情報提供や改善提案、現地立会を行うなど、我々に寄り添っていただけていることを実感し、信頼しています」
支援体制という面でも、VMwareを高く評価したポイントの1つです。「東西のデータセンターに環境を整備していますが、何かあればいつでも本システムを熟知したVMwareエンジニアに駆けつけていただけますし、サポート問い合わせに関しても本国の開発部隊との仲介をはじめ、迅速な解決に向けて我々を後押ししてくれています。長年にわたりしっかり支援いただける体制を整えていただけていることは大きなアドバンテージだと判断したのです」と水野氏は評価します。
結果として、プライベートクラウド環境でのVMware Cloud Foundationを軸に、第3世代となる統合IT基盤の整備を進めることになりました。

JRAシステムサービス株式会社
情報システム運用部 情報システム管理室 調査役 水野 進康氏
「サーバ仮想化のVMware vSphereやネットワーク仮想化であるVMware NSXをはじめ、VMware Cloud Foundationほど多くの機能と実績を持ち合わせたソリューションは他にはありません」
【今後の展望】2,000VMも数時間足らずで移行、VMwareの手厚い支援で安定稼働を継続
統合IT基盤は、公式HPや統合DB、JARIS、VDIをはじめとした25ほどのシステムが稼働する基盤となっており、東西のデータセンター合わせて130台を超える物理サーバに8,000VMほどが稼働しています。現在は第3世代の統合IT基盤の整備および8,000VMの移行も無事完了し、本格稼働を開始しています。
第3世代の統合IT基盤でも、VMware PSと連携しながらVCF Operationsにて日々の運用管理を行っています。「VCF Operationsは定点的な月次のレポートや将来予測などで全体傾向や仮想基盤の安定稼働状況を把握するといった使い方をしています。VCF Operationsは長年にわたり運用ツールとして重要な役割を果たしており、統合IT基盤の長期にわたる安定稼働を支えてくれています」と堀氏。
また、第2世代から採用されたVMware vDefend FWも継続して採用されており、マイクロセグメンテーションの技術により基盤の安全性の向上を期待されています。なお、現時点ではストレージ仮想化のvSANは活用しておらず、外部ストレージを採用しています。VMware Cloud Foundationが提供するエコシステムは、様々なソリューションとの動作実績や高い互換性を有しており、外部ストレージ(3Tier)であってもストレージ仮想化(HCI)であっても安定性の高い基盤を実現できる点もVMware Cloud Foundationの強みです。
VMware PS(プロフェッショナルサービス)としては第2世代から継続して、TAM (Technical Adoption Manager)による運用管理支援などをはじめ、CMS(Critical situation Management Service)によるインシデント支援や作業支援、TCS(Technical Consulting Service)による導入時や移行時の支援など、様々なスキルと経験を持ったエンジニアが連携して包括的なワンストップでの対応を実施しています。第3世代においても、事前にリスクを把握・解消し、障害対応件数を未然に減らすなど、安定運用につながる継続的な支援を続けています。
移行については、 vSphere vMotion を使ったV2Vでのスムーズな移行を実現しています。「今回の移行では、2,000VMが1晩で終わってしまうほど。第1世代から第2世代への移行に比べて10分の1ほどの時間と労力で安全に移行完了できています」と水野氏は評価します。移行性の高さについては牧氏も「ハードウェアがEOLを迎えるタイミングで、従来なら更新開発含めて外部に委託することで高い作業費用がかかっていましたが、今回は基本的に内製化にて安全かつ安価に移行できています。内製化で完結できたのは今後のシステムサイクルの観点でも大きな成果の1つ」と同様に評価します。
また今回は新たにVDI環境のパフォーマンスや品質の課題に応えるべく、vGPUを採用しています。横田氏は「職員は業務利用において品質の低下を感じずスムーズに使えているようで、体感的にも良くなっています」と語ります。
日々の運用については、これまでも大きな障害は発生しておらず、使いやすいソリューションだとVMware Cloud Foundationを横田氏は評価します。「実績で得られた安心感は間違いなくあります。特にネットワーク領域含めて仮想環境をトータルパッケージで提供いただけており、物理スイッチだらけの環境での運用には戻りたくありません。NSXの導入効果を実感しています。」と牧氏も高く評価します。
VMware PSのサポート体制については、牧氏は「ウエットな対応」と表現し、厳格に決められたことだけを行うドライな対応ではなく、顧客に寄り添った真摯な対応を高く評価します。横田氏は「よく現場に足を運んでいただき、会話する機会も多い。何かあってもすぐに状況を伝えられる体制を整備いただけて助かっています」、また堀氏も「ケース管理のような対応ではなく、定例会やレポート報告も含めて情報共有や課題解決できる場を設けていただくなど、我々に寄り添っていただけています」と評価します。水野氏は「内製化していることもあり、設計部分に関してもアドバイスいただけていますし、VMware以外の部分についても有識者にきちんと調査したうえで対応いただけています。柔軟な対応が非常に心強い」と語ります。
今後については、統合IT基盤に加えて、馬券の販売や集計、オッズ計算など収益を直接支えるトータリゼータシステムと呼ばれる仕組みの刷新にもVMware Cloud Foundationへの期待が寄せられています。横田氏は「メインフレーム等で構成されるトータリゼータシステムのオープン化に向けたプロジェクトが進んでおり、この領域でも長年の安定した運用実績を誇るVMware Cloud Foundationを採用していきたい」とし、また、すでに第4世代の統合IT基盤に関する調査を始める段階にあるため、次世代の基盤づくりのなかでもVMwareのソリューションに対して期待していると語ります。
3兆円を超える市場規模を誇る中央競馬を支える大規模な仕組みを、長年の安定した運用実績を誇るVMware Cloud Foundationと顧客志向の手厚い支援を提供するVMware PSが、今後も強力に支えていくことでしょう。

導入環境およびサービス
VMware Cloud Foundation
VMware vSphere
VMware NSX
VCF Operations
VCF Operations for logs
VCF Operations for Networks
VMware vDefend FW
VMware PS(Professional Service)
ソリューション
2015年に稼働した第1世代から安定した稼働実績を誇るVMware Cloud Foundationにてプライベートクラウド基盤(統合IT基盤)を整備。第3世代基盤の整備にあたりvSphere vMotionを活用し、一晩のうちに2,000VMもの移行を障害なく実現。外部委託せずVMware PSと連携しながら移行計画および作業を実施し、内製化を実現。
導入の目的
・公式HPなどが稼働する統合IT基盤を安全かつ迅速に次期基盤に移行
・現行基盤と同等以上の安定性を担保
・VDI上での性能問題の解消を含めた、業務効率および品質の改善
導入効果
・VMware Cloud Foundationで安定性を確保しながら、より高度な運用基盤の整備を実現
・vSphere vMotionを活用し、一晩で2,000VMもの移行を実現。迅速な基盤切替を実現
・vGPUを活用したGPU-VDIの採用により、性能問題や業務品質の課題を解消
カスタマープロフィール

日本中央競馬会法公布に伴って1954年に設立。東京競馬場をはじめ全国10箇所の競馬場やウインズ・エクセルなどの場外発売所、馬事公苑、競馬学校、トレーニング・センターなどを統括。開催競馬場入場人員は500万人を超え、売得金は3兆3000億円超、電話・インターネット投票会員は650万人を超える規模を誇っている。
